“素材”を底上げするスパイスの力——フードクリエイター・小池陽子が感じるカルダモンの芳醇なエネルギー

透明感と奥行きある植物の香り——精油フレグランス、THREE「 エッセンシャルセンツ 」の中でも最もふくよかな 04“SPRIT OF EDEN” の魅力とは？ フードクリエイターの小池陽子さん（SUNPEDAL）と、そのスパイシーなテイストを辿る。

“奥行き”を描く、スパイスのマジック

 

—ヴィーガン（菜食主義のライフスタイルの人）に向けて料理を始めたのはいつからですか？

「SUNPEDAL」（さんぺだる）という名でヴィーガンフードを提案してきて、６年目です。始めた当時はまだまだヴィーガン料理がメジャーではなく、かなり珍しい存在でした。イギリスに留学していた際はベジタリアンのレストランが多くあったのに対して、日本ではまだまだ。ファッション撮影の現場にケータリングを持っていく際には、もちろん感度のいい方々やヴィーガンを求める方もいますが、まったくゆかりも無いスタッフの方々もいます。そこで鍵となっていたのがスパイスとハーブです。

—スパイスやハーブを取り入れるメリットとは何でしょうか？

野菜や果物が持つ個性を引き出すことは大前提ではありますが、さらに深い味わいを与えたり、奥行きを描く際にスパイスやハーブは必要不可欠。肉を使っていないのに「まるでお肉を食べている時の満足感」と喜んでくださる人もいましたし、ヴィーガン＝質素というイメージを払拭してくれるシーンもありました。独自のフュージョン感を演出してくれて、素材そのものの味にパンチを加え、グッと引き立ててくれる優れものだと思います。

—レシピはどれくらい持ってらっしゃいますか？

実は、レシピはありません。その都度その場、その案件ごとに考えています。ケータリングの時は食材を買う場所で素材に触れてから決めていくのですが、その理由としては、野菜や果物は四季やタイミング、気候や条件ですべて味が異なるため。先にレシピを決めてしまうと、その時に出合った素材の良さを100%引き出せないと考えているので、出合ったタイミングとフィーリングを重視しています。“その素材”と向き合ったベストな調理法を心がけていますね。

他人のためではない、自分のための香り

—さまざまなスパイスと向き合ってらっしゃいますが、特に好きなスパイスは何ですか？

昔から大好きなのは、カルダモン。海外でエッセンシャルオイルや香水を買うことが多く、気づけばカルダモンやクローブ、シナモンが入ったものばかりです。料理で好きなのは、中東でよく使われるスーマック。ゆかりみたいな香りと酸味があって、クミンなどと合わせると料理を心地よくシャープにまとめてくれます。

—カルダモンをキーとした香り、04“SPIRIT OF EDEN”もお気に入りの仲間入りができそうでしょうか？

もともと持っている香水はウッディな要素が強いものが多いのですが、この「エッセンシャルセンツ」の04番はまったく逆。ベルガモットやレモンなど果実味がしっかりあって、国産の青みあるゼラニウムも背後に感じられて、みずみずしさや透明感もある。手もちの香水とのレイヤードにもいいし、単品で纏っても軽やかで心地いいです。

 

—どんなシチュエーションで使ってみたいですか？

何も考えずに自然に纏ってみたいです。強く香りが残らないオードトワレなのでまさに“自分のため”の香りですよね。ファッションやメイクのように自分以外の誰かにアピールすることももちろん大切にしていますが、この“自分のため”だけという感覚はすごく贅沢。忘れかけた頃にカルダモンのスパイシーな余韻が急に現れて、自らドキッとする瞬間も含めてすごく素敵です。

カルダモンが醸すフェミニニティ

—お話を伺っていると、調味料や精油のブレンドに何か共通コードがあるように感じます。

実は、コロナ禍を経てヴィーガン料理に関して向き合い方に変化がありました。産地や作り手の方々の気持ち、作られるプロセスなどを見て、よりシンプルに素材を届けたいという気持ちが強くなりました。足し算よりバランス。素材と素材の組み合わせで味わいに深みを持たせたい。その上で、わずかなスパイスを加えることで引き出される味わいは、唯一無二です。香りに例えれば、フランキンセンスの香りだけが強くてもくどくなるから、ほかの香りを加えて奥行きを出すのと同じかもしれません。

 

—スパイスやハーブがいかに重要か理解できます。

約16種のハーブ、スパイスをブレンドしている「さんぺだる塩」という調味料があります。日本食ってほとんどスパイスを使わないので馴染みがないとされていますが、目玉焼きやおにぎりにちょっとそのスパイス塩を加えるだけで、「あれ？いつもの卵が違う。ごはんが美味しい」と、新しい表情が生まれます。その感覚ってスパイス、ハーブにしかできないこと。素材の良さを引き出す力を持っているし、食欲のスイッチをスッと押してくれる素晴らしいものだと思っています。

 

—中でもいちばん好きなカルダモンの魅力とは何でしょうか？

どこに入れても絶対にわかる。「あ、いるな」と絶対に身を潜めない。どこか妖艶でセンシュアルなムードを感じますし、エナジーがみなぎっていく感覚もあります。私自身はカルダモンを纏うと、言葉にできない感覚でフェミニニティが磨かれていくような気もしていて。料理に入れると味とムードが引き締まるのと一緒で、どこかスイッチが入る印象を含めてたくさんのチャームがあるスパイスだと思います。料理と同じように、スパイスで自分自身が何かしらのかたちで際立っていたとしたら、とても素敵ですね。