#006 市川 実和子(女優/モデル)
この頃、よく涙が流れる。
きっかけは、ラジオから流れてきた曲のフレーズだったり、本の中の一節だったりする。
街を行くひとたちの何気ないやさしい会話だったり、春になるといつもの道にいちばんに咲く鮮やかな、いい匂いの黄色い花越しに見る青空だったり。午後の光が透明で、金色で、当たるものすべてを包むように、きらきらしているようなときも、歩きながらこっそり泣いている。
悲しくも、苦しくもない。目をつぶってしまったら、あっというまに過ぎていってしまうかもしれない、その一瞬をなんて言葉にしたらいいのだろう?
浮かぶ言葉はひとつだけど、いつもほかの言葉を探してみる。だけど、考えてもそれ以外の言葉は見つからない。
ひらたく言うと、世界があまりにも「美しい」って思っているのだけれど。
『美しい景色、美しい心、美しい老後など「美しい」という言葉を簡単に使わないようにしたいと思っている。
景色が美しいと思ったら、どういう風かくわしく書く。心がどういう風かくわしく書く。
くだくだとくわしく書いているうちに、美しいということではなくなってきてしまうことがあるが、それでも、なるたけ、くわしく書く。
「美しい」という言葉がキライなのではない。やたらと口走るのは何だか恥ずかしいからだ。』
(絵葉書のように/「武田百合子 天衣無縫の文章家」(河出書房)より引用)
「美しい」という言葉を使うとき、口ごもるようになったのは、武田百合子さんのこの文章を読んでからだ。
はっとした。わたしはそれまでたくさんの言葉を簡単に、ずいぶん乱暴に使ってきたのだと、どきりとした。
「かわいい」「きれい」「すてき」。数えだしたらきりはないけれど、自分の特別な感情も、軽い感情も、一緒くたにして同じ言葉にしてきたのだと気がついた。
それから、自分の大切な気持ちを言葉にするとき、特に「美しい」という言葉を口にするとき、この文章が頭に浮かんで、薄紙に包んでから大事にしまっておいた言葉を箱の中から出してくるような気持ちになる。
そうやって言葉にする前に、自分の中に湧き上がった感情について、ゆっくり考えるようになってから気がついた。
わたしにとって、ほんとうに「美しい」と思うものは、目の前にすると涙が勝手に溢れてくるように、自然と心が動くものごとだと。
ほかの人も「美しい」と思うものなのかもしれない。もしかしたら、誰も思わないものかもしれない。だけど、人がどう思うのか、それは大したことじゃない。
だって、あまりにも美しいものを前に涙が流れたあと、わたしの胸はいつもぱんぱんに膨らんでいる。あんなに小さくしぼんでいたのに、生まれ変わったように満ちたりていている。
その気持ちは、わたしの心を静かに灯す力になる。すこしずつ折り重なっていって、心に流れるあたたかな血となり、肉となっていくのだから。
- THREE QUESTIONS -
Q1 人間としての「美しさ」は、どんなところに表れると思いますか? A1 ふとしたときの表情。人柄がにじむ、むきだしの感情とでもいうのでしょうか。会ったばかりでよそいきで話していた人が、驚いたときや心から笑ったときに見せる、無防備な表情にどうしようもなく惹かれます。 Q2 パーティーのときや大切な人に会う前日など、「美しい自分でありたい」オケージョンの際に、必ずとる行動や習慣は? A2 とっておきの香りのバスソルトを入れたお湯に入ったり、オイルを使っていつもよりちゃんとマッサージしたり。それから鏡に向き合って、そわそわしている自分を落ち着かせます。いつもよりよく見せたいって思いすぎて、自分以上になろうとしても、無理しちゃうだけだよって。 Q3 お気に入りのTHREEアイテムは? A3 考えすぎると本当に頭がカチカチになるものですね。それに気がついてから、知人にいいよーって教えてもらった、スキャルプ&ヘアのクレンジングオイルを使っています。ちゃんとマッサージすると、頭がすっきり軽くなって、ほっとします。 プリスティーンプライマーのグローは日焼け止め代わりに単体で使っています。SPFも高すぎず低すぎず、ベタベタしないので肌が窮屈な感じがしないし、自然な艶が出てお気に入り。 市川 実和子さんのお気に入りアイテム一覧・THREE スキャルプ&ヘア バランシング クレンジング オイル ・THREE アルティメイトプロテクティブプリスティーン プライマー