〈AIMING スペシャルインタビュー #003〉Julianne Ahn(陶芸家)

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〈Special Interview for AIMING〉
#003
Julianne Ahn ジュリアン・アン (陶芸家)

世界のデザイン誌で特集が組まれるだけでなく、
ライフスタイルブランドのCMに起用されるなど あらゆる業界からオファーが引きも切らない
ジュリアン・アン。 神秘的でシンボリックな作品を生み出す新時代の陶芸家は、 土と向き合うことで自然に抗うことを辞めたという。 長かったキャリア模索の時間、難病との闘い, いくつもの障壁を越えて30代半ばで見えてきた、
自分らしくいられる姿とは。

セラミックアーティストは、今ニューヨークでとびきりホットな職業。 ここ5~6年ほどでブルックリンを舞台にしたモノづくりがトレンドになったことで、多くの若手の陶芸作家が登場し活躍している。なかでも、商業的な活動とは少し距離を置き、芸術的な作品を出しているのが「オブジェクト&トーテム」のジュリアン・アン。 象形文字を立体化させたようなオブジェや、円が連なって形になった花瓶など、彼女が作り出す陶芸作品には陶芸にありがちな“ほっこり”とは無縁の、その場の空気をピンと張り詰めさせるような強さがある。 そんなジュリアンがアーティストとして、そして女性として辿ってきた道には、THREEと響鳴する自然へのリスペクトがあった。


“どこにもフィットしなかった若い頃”
ブルックリンのレッドフックにあるフラワーショップ「サイプア」。いわゆる“お花屋さん”とは呼ばせないコンセプチュアルなテイストで知られるが、その店の奥という意外なロケーションにジュリアンのスタジオはある。ごく小さなスペースではあるが、天井から吊るされた棚に素焼きの花瓶やカップが並ぶ様は、独特のムードを放っている。 「そんな素敵に見える? ここにずっといると、まるで牢獄なんじゃないかって思うこともあるのよ」と笑いながら出迎えてくれたジュリアン。作業着のジャンプスーツ姿、粉塵がうっすらと乗った顔を見ていると、彼女の飾らない人柄が伝わってくるようだ。
ジュリアンは、フィラデルフィア郊外で生まれた韓国系アメリカ人。両親は韓国からの移民だったが、教育には自由なスタンスで、創作の分野にとても協力的だったという。 「子供の頃は内向的で大人しかったけれど、ひとたびスケッチブックを持てば自分を目いっぱい表現できる、そんな二面性をもった子だった。十代の頃は、自分の生まれ育ったアジア系のコミュニティと白人ばかりの高校、どちらにもフィットできず、どこか彷徨っている気分だったわ。私はアメリカ人だけれど、学校ではいかにもなアジア人らしさを求められたから」 そんな曖昧な気持ちをかき消してくれたのは、いつもアートだったという。


“キャリアの葛藤”
大学は名門ロードアイランド・スクール・オブ・デザインに進み、テキスタイルデザインの学位を取得。シカゴのアート研究所で修士号も習得した。クリエイティブな道を志す者としては申し分のない学歴だが、「大学院卒業とともにリーマン・ショックがあって。コンセプチュアルな勉強をしてきた私には仕事がなかったの」とジュリアンは振り返る。フィラデルフィアに戻り、デザインアシスタントのインターンをしたり、パートタイムで働いたり。将来が見えず暗澹たる時代だったという。 「どんなアートを作りたいかを模索していたわ。人ってキャリアを見てあなたがどんな人かを定義づけようとするじゃない? 私の人生はそのとき中に浮いたまま。誰にもなれない、自分の小ささを嫌というほど思い知ったわ」
そんなとき、たまたま偶然に陶芸のクラスを受けることに。何かを学びたくて、とにかくクリエイティブであり続けたいと飛び込んだそう。 「土に触れるのが最初は怖かったわ。整然としたテキスタイルとはまったく違ってカオスだし。陶芸は心が落ち着くなんて言われているけれど、いったんコントロールを失うと大変で……。最初に作った作品なんて覚えていないくらい(笑)」 それだけ、陶芸を自分のクリエーションとして生業にするには、技術的にも精神的にも、そして経済的にも労を要した。


“陶芸家としての道”
「土に水をずっと加え続けていると、ドロドロになってどこかに行ってしまうでしょ。それなのに、焼きあがった作品はどれもどっしりと重くて。ああ、何か意味があるものを作らなくちゃって心配していたけど、何よりも大事なのは素材とピースフルな調和を保つことで、それはとても時間がかかることなのだということにやがて気付いたの」 ジュリアンはマグやプレートのほか、セラミックのビーズパーツで作った個性的なネックレスを作りはじめ、当時ちょうど人気に火がつき始めていたインスタグラムによって瞬く間にファンを獲得。ファンというコミュニティをもつことが、陶芸家としてのデビューを後押しした。
2010年に自身のブランド「オブジェクト&トーテム」を誕生させてから7年。「今もまだまだ勉強中よ」と謙虚な姿勢を見せる。幾何学模様やミニマルな形象から発想を得ているという作品は、装飾に走るのではなく、建築美を愛でるように新しい“線”の魅力を見つけられるのが特徴。手作業のため作品はほとんどがソールドアウトという状態が続いており、卸先もごく少数に限定するほどの人気ぶりだ。
「マグカップみたいに普遍的で手頃な値段のものに大きな需要があるとしても、新しいカタチはいつも追求していかなくちゃと思っている」ときには同じことを繰り返す作業に飽きることもあるが、それでも自然の土にはまだまだ無限の可能性があるのだ。掌や指の加減で、タイミングで、温度で、釉薬で、あらゆる要素が絡み合いながら、昨日とは違う作品が生まれる。果てしなくロマンチックな仕事だ。 「でもね、作品が全部真っ黒焦げになっている悪夢を時々みるの。窯から出るときってどうなるか本当にわからないから。これはいける!って確信がある日なんて、ごくたまによ」とジュリアンは苦笑する。


“自分に起きた大きな変化”
普段はスタジオにこもりっきりのジュリアンだけれど、プライベートでは13ヶ月の男の子のママでもある。 「実を言うと、子供ができて仕事のあり方が変わってしまうのが怖かった。周囲はナニーを雇えば大丈夫って言ってくれたけれど、実際の最初の2ヶ月は大変だった。赤ちゃんがいる生活に加えて、2ヶ月もスタジオに行っていなかったことが」ひとりの陶芸家から母になるという変化は、想像以上に受け入れがたかったのだ。だが、自分の子供も自然と同じ、自分の思うようにコントロールはできないと達観してからは楽になったとか。息子がつい最近歩き始めたと語る柔和な笑顔は、作業着姿でもママの一面を感じさせる。
ワーキングマザーとして忙しい日々において、気をつけている健康法があるか聞いてみると意外な答えが。 「今年は色々なことが変化したの。実は前年に、関節が炎症を起こす自己免疫性疾患にかかっていることがわかって。薬はなるべく飲みたくなかったから、医師の下であらゆる食事療法を模索したわ。それで、パレオダイエットを実践するようになったの」パレオダイエットは“原始人ダイエット”とも呼ばれ、旧石器時代の人々と同じ食生活を送るというもの。農耕が始まる前の食生活、つまり肉や魚はOKだが穀物を取らないというものだ。とはいえ、子供、夫、そして自分の食事を分けるのはかなり大変なため、今では砂糖と乳製品をカットする緩やかな食事法にシフトしているそう。疾患のため体重も減り、肌も乾燥肌になってしまったというジュリアン。だが、この話を共有してくれた彼女は決して悲観的ではなく、あくまでこれが今の自分であると受け止めている。 「大変だけれど、そこからどうやって生きていくかってことが大事だもの」


“セルフケアで意識する、女性としての自分”
そんなさっぱりとした性格にふさわしく、ジュリアンのスキンケアやメイクアップもいたってミニマルだ。 「高温の窯があるからスタジオはすごく乾燥するし、埃っぽいし、ここは決して肌に良い環境ではないの」とこぼすジュリアン。そんな環境に長時間いるからこそ、THREEエミングのローション・エマルジョン・クリームは手放せない存在になっていると嬉しい感想をくれた。朝のケアで1日中肌をふっくらとさせてくれるうえ、作業の途中で使うとボタニカルな香りがふっと張り詰めた緊張感をほぐしてくれるのだという。乾燥肌と言いながらも、ジュリアンの肌は陶器のように滑らか。美しい肌を生かし、お化粧はBBクリームとアイライナーのみだとか。ちょっとしたメイクを忘れないのは、ひとりの女性として人前に出られる状態でいたいから。ジュリアンにとって、メイクアップはプロフェッショナルな1日の始まりに備えるための儀式なのだという。
「子供と一緒にいるとついつい自分の見た目は忘れがちだけれど、メイクアップやケアをすることで“個”の自分を意識させてくれると思うの。THREEみたいにお気に入りのものを使うことで、さらに心に余裕が生まれるし、乳液をつける一瞬だけでもそんな時間があれば女性として潤うはず」


“変化も受け入れ歩む未来”
現在36歳。出産も経て色々な変化が出てきたときだというが、「加齢って不思議よね。例えば今までファンデーションを軽くつけていれば良かったのが、ある日そこに明るい口紅が必要になって。伸ばすためにカットしていたまつ毛が、そもそも伸びなくなってきて。だんだんと再生する力が衰えてくることに気づくんだもの。でも、そんな衰えにだって自分を労りながら付き合っていきたいわ。60歳になっても、顔や体、洋服といった自分の見た目にコンフォタブルでいたいの。白髪も増えているだろうけど、”Let go”よ!」
土と触れ合い、コントロールできない自然のパワーを知るジュリアンが語るからこそ、自然を受け入れることの大切さが響く。早くもお気に入りにしてくれたTHREEエミングのスキンケアの力も借りて、自分を労りながら年を重ねていく。エイジングに怖れることはもうない。


JULIANNE AHN(ジュリアン・アン) 1981年ペンシルバニア州出身。Rhode Island School of Designでテキスタイルデザインの学位を取得した後、2007年The School of the Art Institute of Chicagoで修士号を取得。2010年に自身の陶芸スタジオ「Object & Totem」をスタート。奇想天外な形を可能にしたセラミックウェアとアクセサリーがソーシャルメディアで人気を獲得し、注目の若手陶芸作家としてメディアに取り上げられる。フィラデルフィア、ベルリンを経て、現在はニューヨークのブルックリン在住。自身のオリジナル作品のほかブランドとのコラボレーションも積極的に行っている。