五木田智央 「Come Play with Me」 2018年 アクリルグワッシュ、キャンバス 259 x 194 cm © Tomoo Gokita / Courtesy of Taka Ishii Gallery
アート作品の命の長さを想像したことはありますか? アーティストが死んだ後も作られた作品は生き続けます。美術館に収められたり、たくさんの人の手を渡りあるいたりして、100年、200年。ときにはそれ以上、500年、1000年単位で、その時々の人と付き合いながら、生みの親が知ることのない時間を生きていきます。そうしながら、作品は特定の時代を物語るだけでなく、何度でも生まれ直し、その時代の状況によって様々な存在感を放ちながら多様な生き様を見せてくれます。そういう意味では、アート作品の本質には”MOVE”というスピリットが力強く刻まれていると言えるかもしれません。
そんなアートの魅力から、私たち自身の日々の振る舞いを振り返る糸口を探す連載SEE & BEHAVEの初回に紹介する作品は、五木田智央さんの「Come Play with Me」です。
この絵は現在東京オペラシティアートギャラリーで開催中(2018年6月24日まで)の五木田さんの個展「PEEKABOO」の会場で最初に展示されています。不敵な笑みを浮かべ“カモ~ン”と挑発してくるような(PEEKABOOは“いないいないばあ”という意味です)ダンサーらしき女性が縦259x横194cmにもおよぶ大きなキャンバスに描かれています。
この作品「Come Play with Me」は、“いい絵”の魅力を隅々まで兼ね備えているといえるでしょう。
“いい絵”は、描かれる地であるキャンバスの四方の隅々まで、描く素材である絵の具が上手にコントロールされています。濃く、薄く、太く、細く、荒々しく、繊細に……。図ろうとも図らずとも、素晴らしい画家は、キャンバス面をコントロールすることができるのです。
よく見てみると、この女性の目元や目線、首元は、描かずして描くとでも言えるように、ぼんやりとしていながらも圧倒的な魅力を湛え、この作品の力強さを誘発しています。絵の魅力について言葉を重ねてみると、どこか化粧について話しているようでハッとさせられるのも“いい絵”の不思議な魅力のひとつと言えるかもしれません。
五木田さんは幼い頃から絵が抜群に上手かったといいます。色々な仕事をしながらも絵を描くことは止めず、CDジャケットへのイラストレーションの制作等からスタートし、やがて自分の好きなものだけを描くことに専心するようになると一気に作品の魅力が花開き、現代を代表する画家のひとりとして注目を集めるアーティストとなりました。その作品は日本に留まらず世界で評価を高めています。素晴らしい作品は軽々と国境を越え、多くの人々のもとへ届く―そんなアートの魅力を圧倒的な作品をもって伝えてくれるのが五木田さんです。
生みの親とともに作品を見ながら未来への挑戦を占う現場が、コンテンポラリーアートです。五木田さんが生み出す作品たちは、どのような大海原を渡りゆくでしょうか? きっとこれからのあらゆる時代の荒波にも負けず、作品の傍にいる人々を活気づけてくれるでしょう。大いなる期待とともに!
〈作家情報〉
五木田 智央 TOMOO GOKITA
1969年東京生まれ。イラストレーションから出発し、60〜70年代のアメリカのサブカルチャーやアンダーグラウンドに影響を受け、当時の雑誌や写真にインスピレーションを得た作品を発表。90年代後半にドローイング作品により熱狂的な支持を得る。その後、キャンバスにアクリルグワッシュで描くモノクロームの人物画を中心に制作。ニューヨーク、ロサンゼルス、ベルリンなどでも作品を発表し、高い評価を受けている。2014年に佐倉市のDIC川村記念美術館で個展「THE GREAT CIRCUS」を開催。また、出版物も多く、作品集に『ランジェリー・レスリング』(2000年)、『シャッフル鉄道唱歌』(2010年)、『777』(2015年)、『Holy Cow』(2017年)などがある。
〈キュレーション・執筆〉
菊竹 寛 YUTAKA KIKUTAKE
1982年生まれ。ギャラリー勤務を経て、2015年夏にYutaka Kikutake Gallery を六本木に開廊。Nerhol、平川紀道、田幡浩一など、これからのコンテンポラリーアートを切り開いていく気鋭のアーティストたちを紹介。生活文化誌「疾駆/chic」の発行・編集長も務め、ギャラリーと出版という2つの場を軸に芸術と社会の繋がりをより太く、より豊かにするようなプロジェクトに挑戦中。www.ykggallery.com