映画の中の人生
人生のさまざまなドラマ、お腹を抱えて大爆笑するエンターテインメント、時代を象徴するファッションが感じられるモノクロのほか、ドキュメンタリー、SF、推理もの、ヨーロッパの小作品、インドの喜劇、アニメからホラーまで、映画のジャンルは多岐にわたります。テレビドラマやニュースとは何かが違う、映画の世界。コロナ禍で、世界中を簡単に旅することができない今だからこそ、映画は私たちの心が癒される大切な存在にもなると思いませんか?
さて、映画を観ているときに度々感じるのが、「時間」の果てしない長さです。たった2時間という上映時間に、無数の人生が描かれます。それは幼い頃の回想録のようであり、タイムスリップした自分の人生の結末のようでもあります。興奮や、成し遂げる喜び、己の可能性、未だ体験したことのない「時間」。後悔や、すれ違い、伝えたかった気持ち、二度と戻ることのできない「時間」。映画はいろんな時間を見せ、私たちに静かに語りかけます。
「ニュー・シネマ・パラダイス」(1989年)は後世に語り継がれる映画の一つ。沢山の繋ぎ合わせたキスシーンフィルムが上映されるラストシーンはあまりにも有名です。これこそ、まさに空白の時を語る言葉なき言葉。銀幕を一人見つめる主人公トトの目が輝いていく。このシーンも捨てがたいけれど、この映画の後半で、年老いた母親が、村に帰省した息子トトに向かって語りかけるシーンが好きなのです。「お前に電話をすると、いつも違う女性が出る。でもお前を、心から愛している声をまだ聞いてない。聞けばわかるわ」と。ほんの一瞬登場する母親が語るこの言葉に、彼女の人生の長い時間も語られているのです。
映画は、静かに力をくれます。映画は静かに、人生に寄り添ってくれるのです。映画を観た後に、ふと、自分の人生が思い出される。そんな素晴らしい作品に出会えますように。