井口 和哉 (「REVIVE KITCHEN THREE AOYAMA / restaurant RK」シェフ) 〈THREE TREE JOURNAL INTERVIEW〉

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2019年11月から「REVIVE KITCHEN THREE AOYAMA / restaurant RK」で
腕を振るう井口和哉シェフ。

「REVIVE KITCHEN THREE AOYAMA /
restaurant RK」では、魚や肉を使わず、
野菜を主としたフレンチを提供しています。
名店でキャリアを磨いた彼が、
野菜を軸に料理を考えるようになったきっかけとは?
そして、野菜に感じる魅力や可能性とは?

今回は井口シェフのバックグラウンドから
野菜についての考え方まで、たっぷりとお話を伺いました。

―小学校の頃、すでに文集に
「料理人になりたい」と書かれていたそうですね

「4年生くらいの頃には料理人になりたいと思っていましたね。兵庫県の但馬という自然に囲まれた場所で生まれ育ったのですが、今と違って情報源はテレビ一択。当時、料理人にフォーカスした番組やアニメが多く、かっこいいなと惹かれました。両親が共働きで料理を手伝うことも多く、“食”が身近にあったことも影響しています」

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―「タテルヨシノ銀座」(東京)、「ル・コントワール・ド・ブノワ」(大阪)、「ミッシェル・ブラストーヤ ジャポン」(北海道)などフレンチの名店でキャリアを磨いていらっしゃいますが、最初に入った「タテルヨシノ銀座」では食べに行った時にその場で「働きたい」と直談判されたとか

「大阪の調理師専門学校時代に、お金を貯めて勉強のためによく東京へ食べ歩きに行っていたんです。そのなかで、料理もサービスも群を抜いてレベルが高かったのが『タテルヨシノ』。衝撃を受けて、その場で入店を志願しました。その後『タテルヨシノ』と『ブノワ』でフランス料理の基礎を学んで、オーベルジュの『ミッシェル・ブラス トーヤ ジャポン』へ。それまでも野菜に触れることが多いポジションにいましたが、ここでは店が畑をもっていたので、ぐっと野菜との距離が近づきました」

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「店の畑で日々ハーブや泥付きの野菜を収穫したり、山菜を取りに行ったり、自分で畑を借りて野菜づくりに挑戦してみたり。野菜は自分のキャリアの軸になると、この頃から考えていました。その後、東京で『ビストラン エレネスク』のシェフに着任して、自分でも仕入れを任されるようになりました。それまでは世界中から仕入れた食材を使っていましたが、『おいしい』と褒めていただいても半分くらいしか自分はそこに貢献していないような気がしていて。料理は食材ありきですから、『食材が優れているだけではないのか」『この料理をつくるのが自分である必要はあるのか?』とモヤモヤしていました」

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「そのうち、地元・但馬や日本海の食材を仕入れるようになったんです。そうして、自分のルーツと関わりのある食材を使った料理を『おいしい』と言っていただくようになって、やっとその言葉が自分に向けられているんだと実感できるようになりました。自分らしい料理に評価をいただいていると。また、ここで気づいたのが、地域や品目など、何か制限があったほうが、クリエイターとしてはやりやすいということ。より皿の上にストーリーを作りやすいんですよね。あえて絞ったほうが、より食材にフォーカスできて、おもしろいクリエイションにたどり着ける。これは現在の料理にも生きています」

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―現在は魚と肉なし、
いわば野菜だけという制限がありますよね

「はい、野菜だけに絞れば、より尖ったものができます。肉や魚があったらここまでひとつひとつの食材に没頭していない……というより、できていないと思います(笑)。店から近くの場所で週末に『青山ファーマーズマーケット』が開催されるので、生産者との距離もさらに近くなりました。コミュニケーションを密にとりながら仕入れた、顔の見える生産者たちの食材ですと、お客様と味やおいしさを心から分かち合うことができます。こうやって料理を通して作り手と料理人、食べるゲストが共感しあえるところがレストランの素晴らしいところだと思います」

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―野菜だけとは思えない、複雑で繊細、
かつクリエイティブな井口シェフのお料理。
料理をするうえでもっとも大切にされていることとは?

「香りと温度。いちばん技術が表れるところですね。技術といえば、フランス料理の“おいしくなるセオリー”を使わないようにしています。香り、温度、酸味、塩味、食感……そのベストバランスに辿り着く近道があるのですが、あえて回り道をして、“おいしさ”をつくる。ひとつの食材で済ませてしまいがちなところに、複数を組み合わせてみる。例えば一皿に対して、ぱっと目に見える食材は5つでも、実際に使っている食材は20種類だったりします。そうやって、複雑さをシンプルに表現しています。複雑にすることで、ひとつひとつの食材の香りのピークがずれて、長く余韻が続きます。フランス料理には余韻が大事。余韻があって、次の料理を待っている間もおいしさが続く。それがクラシックなフレンチの素晴らしいところですね」

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「そのほか、野菜を発酵させたり、塩漬けにしたりして、メインとなる旬の食材と組み合わせて奥行きを出す。そうやって手間ひまをかけて、お客様に『こんなの初めて食べた!』とおもしろく食べていただける料理を目指しています。それは何を食べたという“記憶”ではなく、初めて食べた“体験”としてお客様のなかに残るのではないかなと」

―端材をパンに練り込んだり、皮や種をパウダーにしたり。
井口さんのお料理は自然とフードロスへの配慮やサスティナブルにも繋がっていますよね

「うちは基本的に食材を捨てません。ほぼすべての部分を加工して料理に活かしているのですが、その理由はシンプルにおいしいから。おいしくなかったら捨てます(笑)。無理をするのではなくて、おいしい料理をつくることがサスティナブルに繋がる、僕はそう考えています」

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「『REVIVE KITCHEN THREE AOYAMA / restaurant RK』に入ってからヴィーガンの方とお話をする機会が増えました。大人になってから肉や魚のおいしい記憶をもったままヴィーガンに転向するのはすごいことだと思うんです。僕自身は肉も魚も大好きですから。人間の生き方を変えるような決断をしてもらうことは難しいですが、週1回、月1回でも“おいしいから”野菜だけの日があってもいい、うちの料理を食べてそう思っていただけたら。そうして野菜に興味をもつお客様が増えたら、それは本当の意味でサスティナブルなことではないかなと思います」

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―最後に、目指していることや今後の夢を教えてください

「食材の制限に関係なく、ガストロノミーの土俵で評価してもらうことですね。野菜レストランのなかでおいしい、“野菜にしては”おいしい、ではなく、掛け値なしにおいしい、食べたいと思っていただけること。遠い将来の夢としては、自分のルーツに返って、地元で全国、各国からお客様にいらしていただけるような店をつくりたいです。野菜は自分の個性をいかすことができますし、あれこれ研究するのがおもしろい。今もこれからも、ずっと自分の料理の軸にしていきたいと思っています」

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―井口シェフの複雑な掛け算が施された繊細な料理たち。きっとそれは、これまでの野菜料理の概念を覆すに違いありません。食べたことのない料理がうむ新しい食体験を味わいに、ぜひ「REVIVE KITCHEN THREE AOYAMA / restaurant RK」に遊びにいらしてください。

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THREE TREE JOURNAL

井口 和哉さん
〈REVIVE KITCHEN THREE AOYAMA / restaurant RK」シェフ〉
INSTAGRAM:@kazuya_iguchi1201

REVIVE KITCHEN THREE AOYAMA / restaurant RK
東京都港区北青山3-12-13 1F
定休日 毎週火曜日 / 年末年始

INSTAGRAM:@three.revivekitchen
OFFICIAL SITE: REVIVE KITCHEN THREE AOYAMA / restaurant RK