日本を代表するスタイリストとして長年活躍し続けている祐真朋樹さんは、「時代によって求められる顔は変わる」と語る。
「90年代からパリやミラノのコレクションを観てきましたが、当時は男性モデルはヘアしかやらないのが当たり前でした。顔はせいぜい皮脂のテカリを抑える程度でね。男はナチュラルであるべきって考えられていたんでしょう。最近まで撮影でもファンデーションをつけることはありませんでした。でもこの数年で男性モデルの扱いも大きく様変わりし、単に肌のコンディションを整える以上の“メイクアップ”を施すショーも増えてきました。いまやメンズのランウェイにおいても、メイクアップはれっきとした演出の一部です。まあ、“男が着飾るなんて”って時代もあったわけですから、価値観なんてどんどん変化していくものなんですよね」
では、どんな顔がカッコいいのか、どんな顔が美しいのか。モデルや芸能人など、これまで膨大な数の男の顔を見てきた祐真さん。ときには写真家としても男の顔と向き合ってきた。だが、そんな彼でも男の顔の“正解”は分からないという。
「目鼻立ちが整っているからカッコいいわけでもないですからね。個人的にカッコいいなと思うのは、子どものころにテレビドラマで観た萩原健一さんとか水谷豊さん。小学校2年くらいだったかな、5つ上の兄の影響で『傷だらけの天使』を観ていて、カッコいい人たちだなあと思った。理由とかないですよね。ファッションも含めてとにかくカッコよかった。松田優作さんも好きでしたね。『ブラック・レイン』もよかったし、その前の『太陽にほえろ』とか『家族ゲーム』も好きでした。共通しているのは、目鼻立ちが美しいから好き、というわけではないということ。個性、存在感、たたずまい……。萩原さんや松田さんは亡くなられたけど、やっぱり最後までカッコいいままでした。男の顔にはその人が生きてきた歴史が刻まれる。そこに僕はひかれるんだと思います」
最近、気になる“顔”は、俳優の菅田将暉さんと野村周平さんだという。
「人に勧められて映画『帝一の國』を観たんです。彼ら2人はいい顔をしていましたね。存在感があったし、顔から俳優としての自信が伝わってきました。やっぱり自信なのかな。自信があるから人としてゆとりがある。その余裕みたいなものが男をいい顔にしてくれるのかもしれませんね」
男の顔は自信。自信がないから化粧をするのではない。自信をつけるために男は化粧をする。
「歌舞伎役者やロックスターが隈取や化粧をするのは、自分を美しく見せるためではなく、『自分ではない何者か』になるため。何者かに変身することで、自信を得るのでしょう。ある有名寿司店の職人は、美容整形で寿司を握る手のシミを取ったという話を聞いたことがあります。そうすることで客は自分の握った寿司を気持ちよく食べることができる、と。僕は古い人間だから(笑)、普段はほとんど手入れもしないけど、撮影前に少し眉を整えてもらうと、それだけで気分がいいし、写真を撮られるための自信が生まれます」
そう語る祐真さんの顔は、やはり自信に満ちているように感じるし、とても男らしく、凛々しく思える。「自分の顔は好きですか?」と尋ねると、「嫌いだと生きていけないじゃん」と笑う。後編では、現在54歳の彼が自分の顔とどう向き合ってきたかについて語ってもらった。
祐真朋樹TOMOKI SUKEZANE
1965年生まれ、京都市出身。
雑誌『POPEYE』(マガジンハウス)のエディターを経てスタイリストに。『UOMO』、『Casa BRUTUS』、『GQ JAPAN』、『ENGINE』などの数多くのファッション誌でスタイリストとして活躍。ライカのカメラを愛用、自ら写真を撮ることもある。多くのアーティストやミュージシャンから高い信頼を得て、彼らの広告、ステージ衣装のスタイリングを手がけている。昨年、元SMAPの香取慎吾とともにファッションブランド「JANTJE_ONTEMBAAR」をスタート。そのディレクションも行う。